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新型コロナウイルス感染症と使用者の安全配慮義務(甲府法人たより153号より抜粋)
古屋法律会計事務所 弁護士 古屋 俊仁

Q.
社内で発生したクラスターなどが原因で従業員が新型コロナウイルスに罹患した場合、会社がそのことによって生じた損害を賠償しなければならないことがありますでしょうか。そのような場合があり得るとして、その法的根拠と会社として講ずべき対応策を教えてください。


A.
1. 国内の新型コロナウイルスの感染状況
 新型コロナウイルスの感染状況は、一時落ち着きを見せていましたが、現在はオミクロン株の急拡大が進んでおり、依然として予断を許しません。そのような中、従来から懸念されていた新型コロナウイルスの感染に関する訴訟リスクが現実化する例も確認されはじめています。

2.訴訟提起がされた例
 令和3年9月の報道によれば、令和2年3月に職場内でクラスターが発生し、翌4月に感染が判明した男性職員が同月中に死亡し、同時に、当該男性が自宅で介護していた母親も新型コロナウイルスに感染して同月中に亡くなったという事案について、両名が新型コロナウイルスに感染して亡くなったのは、勤務先が感染防止対策を怠ったためだとして、妻ら遺族3人が勤務先の財団法人に対し合計約8,700万円の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起したということです。

3. 使用者の従業員に対する安全配慮義務
この訴訟では、使用者に安全配慮義務違反があったか否かが争点とされていることが報じられています。
 使用者は、「労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするもの」とされ(労働契約法5条)、従業員の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っています。従来から判例法理として確立していた概念ですが、平成19年に労働契約法が制定された際、使用者の労働契約上の義務として明文化されたものです。
 したがって、新型コロナウイルスの感染についても、感染による健康被害の発生が予見可能で、その結果回避が可能であったにもかかわらず、そのために必要な措置をとらなかった場合には、そのことによって生じた損害について、使用者は安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うことになります。
 それでは、具体的にどのような措置をとる必要があるでしょうか。安全配慮義務に関する訴訟でも、この点を特定することが最も重要なポイントの一つになります。
 安全配慮義務の内容は一義的に定まるものではなく、職種や労務内容、地域性等を踏まえて事案ごとに個別具体的に判断せざるを得ないところですが、最高裁判所の判例は、事業に用いる物的施設(設備)と人的組織の管理を十全に行う義務を安全配慮義務の基本的な内容としていますので、これが重要な指標になります。
 また、政府の公表している対処方針やガイドライン(重要なものとして、業種別ガイドライン https://corona.go.jp/prevention/pdf/guideline.pdf)についても十分に考慮する必要があります。
 以上を参考にすると、アクリル板の設置や検温、消毒装置の設置、マスク着用や換気の徹底、共同で使用する機器の定期的な消毒、従業員の教育ないしルール化(基礎疾患や体調不良の申告、密の回避等)を行い、従業員に体調不良がある場合、産業医や当該従業員のかかりつけ医ないし受診・相談センターへ相談し、その結果に応じて自宅待機措置をとることなどを基本的対応とした上、職種に応じて適当な措置を講ずることが必要になるといえます。
 特に、新型コロナ感染症については、政府方針やガイドラインが短期的にアップデートされていきますので、刻々と変化する状況に応じた対処ができるよう、日頃から情報収集に努めることが重要です。

4. 終わりに
 新型コロナ感染症の対策については、従業員や顧客の健康を守り、また業務遂行の妨げとなることがないよう、既に細心の注意を払われているところかと思いますが、法務の観点から、重大な訴訟リスクが生じかねないことを改めて御確認いただき、対策の強化に役立てていただきたいと思い紹介いたしました。


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