インボイス制度導入後の変更点と問題点(甲府法人たより151号より抜粋)
東京地方税理士会 甲府支部 税理士 本川 修一
令和5年10月1日から、適格請求書等保存方式 (インボイス制度)の導入により、区分記載請求書に代えて「適格請求書」と帳簿の保存が仕入税額控除の要件となります。
そしていよいよ本年月から適格請求書発行事業者の登録申請が始まります。 今回は、インボイス制度が導入された場合に生じる影響(事業者がこうむる可能性のある不利益)について説明したいと思います。
1 現行制度と適格請求書保存方式 (インボイス制度)導入後の変更点
現行の消費税仕入税額控除の要件は「区分記載請求書保存方式」であり、軽減税率の適用対象となる商品の仕入れかそれ以外の仕入れかの区分を明確にするための記載事項を追加した帳簿及び請求書等の保存を要件とする方式です。
令和5年 月1日からは「適格請求書保存方式」となり、【図1】のとおり区分記載請求書に 「1登録 番号」「2適用税率」「3消費税額」を追加しなければなりません。
2 インボイス制度により起こりうる問題点(事業者がこうむる可能性のある不利益)
(1) 売上一千万円以下の免税事業者への影響
インボイス制度の導入で最も問題となるのが、適格請求書を発行できない事業者からの仕入れは「仕入税額控除」ができない、という点です。 年間の売上高が一千万円未満の事業者は消費税の免税事業者となっているケースが多く、現状のままだと適格請求書を発行することができません。
したがって、取引先は仕入税額控除を受けるために、免税事業者との取引を断って、課税事業者と取引することが想定されます。
免税事業者が今までどおり取引を続けたいのであれば「消費税課税事業者選択届」を税務署に届け出して課税事業者にならなければなりません。
(2) 免税事業者が取引先にいると税負担が増加
課税事業者が免税事業者と取引をした場合、適格請求書を発行してもらうことはできませんので、仕入税額控除を適用することができません。課税事業者自らが支払った分の消費税相当額を負担しなければならなくなります。
ただし、インボイス制度導入後すぐに仕入税額控除ができなくなるわけではなく、【図2】のとおり、6年間の経過措置が設けられています。
なお、この経過措置による仕入税額控除の適用に当たっては、免税事業者等から受領する区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存とこの経過措置の適用を受ける旨(80%控除・50%控除の特例を受ける課税仕入れである旨)を記載した帳簿の保存が必要です。
(3) 適格請求書発行事業者になるための手続き
適格請求書発行事業者となるためには、税務署長に 「適格請求書発行事業者の登録申請書」(登録申請書)を提出し、登録を受ける必要があります。免税事業者が登録を受けるためには、登録申請書に加えて「課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。
インボイス制度開始当初(令和5年10月1日)から登録を受けるためには、原則として、令和3年 10月1日から令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。なお、登録申請書はe‐Taxでも提出が可能となります。
(4) まとめ
課税事業者においては、インボイス制度が導入されると免税事業者との取引が消費税負担の大きな問題となってきます。今のうちにインボイス制度の趣旨を取引先と十分に話し合い、免税事業者には課税事業者になってもらう、もしくは取引先を課税事業者に変更するなどの対応をする必要があります。