公益社団法人 甲府法人会

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法律株主平等の原則と属人的株式(甲府法人たより151号より抜粋)
古屋法律会計事務所 弁護士 古屋 俊仁

Q.
当社は、株式の譲渡について取締役会の承認を要すると定款に規定されているいわゆる「非公開会社」です。株主は、創業者である甲が発行済み株式の60%を所有し、残りの40%を甲の長男乙が所有しています。甲は乙を後継者として以前から徐々に甲名義の株式を乙に譲渡してきました。当社では株価対策をし、今期末の株価は相続税評価額で相当低い価額になりました 。そこで甲所有の60%の株式のうち相当部分を思い切って乙に譲渡しようと考えましたが、乙の株式保有率が過半数になると甲の経営権に支障が生じても困るとの心配が出てきました。甲は財産は後継者に渡していいが、甲もまだ元気なので当社の経営は続けていきたいと考えています。何かよい対策はありますか。


A.
1. 会社法第109条1項は 次のように規定しています。「株式会社は、株主をその有する株式の内容及び数に 応じて平等に取り扱わなければならない」。これを「株主平等の原則」といいます。取締役や監査役の選任・解任、計算書類の承認、配当金の決議、役員に対する退職金の支給等、会社にとって重要な意思決定は株主総会の決議によって定めますが、その決議は原則として1株1個の議決権としてその多数決で決議します。したがって、発行済み株式の過半数を有している者が会社の経営権を有することになります。このことは説明するまでもないと思います。以上が株式会社における経営権の所在についての大原則です。

2. ところが同じく会社法109条2項は次のように規定しています。「前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨を定款で定めることができる」。ここでいう公開会社でない株式会社とは、株式の譲渡について取締役会等の承認決議を要すると定款で規定されている会社です。この規定は会社の登記簿に記載されることになっています。大多数の会社がこの規定を有している公開会社でない株式会社です。したがって、ほとんどの会社で株主ごとに前記の3つの事項を定款で定めることができます。

3. 重要な株主総会における議決権について考えてみますと、次のような定款の定めができます。「甲は、1株100議決権、乙は1株1議決権とする」とか「乙の議決権を10分の1に縮減する」などです。そうすると甲は発行済み株式の2%を有していれば議決権については67%を有していることになり、甲は後継者に98%の株式を譲渡しても経営権は失わないことになります。
 このような株式のことを「属人的株式」といいます。
 属人的株式は定款変更の手続きによりその効力を生じます。このような株主平等の原則の例外を認めることになるので、この定款変更のための株主総会の決議は、総株主の半数以上(頭数)であって、総株主の議決権の4分の3以上(議決権の個数)に当たる多数の特殊決議をもって行う必要があります。しかし、属人的株式は定款記載事項でありますが、会社の登記事項ではありません。したがって、定款を見なければ属人的株式の発行会社か否かはわかりません。

4. このような属人的株式は、新たに新株を発行する必要はなく既発行株式について、この定めをすればよいことになっています。極めて便利な方法です。しかしこの方法により属人的株式の発生をさせた場合、税務上、議決権数の少なくなった者から議決権が多くなった者への贈与税の問題が発生するのではないか心配になります。というのは、株式の評価について議決権の多くなった株式の価額は高くなり、議決権の少なくなった株式の価額は低くなるのではないか、その結果、株価が低くなった者から株価が高くなった者への贈与があったものとされるのではないか、という心配であります。
 しかし、現行の税法の実務ではこの心配は不要です。定款変更時の贈与税の問題も、また、株式の評価の変更もなく、甲、乙の有する株式は属人的定めのない普通株式として評価されるというのが現行の税法の評価方式です。
 この属人的株式は、その株式とその所有者とが結びついた株式ですから、その株式が譲渡されたり相続により移転したりすると属人的株式の定めの効力は消滅し、普通の株式に変わりますし、この定款の定めを変更することもできることから、税務上はこのように解されています。
 以上の通りですので、後継者や子供に財産権である株式を大部分譲渡しても、この規定に基づき創業者等が引き続き会社の経営権を保持しながら会社を運営することができます。

5. この規定は、平成17年会社法制定の際、旧有限会社法で認められていた属人的出資金の取り扱いが、公開会社でない株式会社に引き継がれたものです。この規定が前記のごとく極めて使い勝手がよいものですのですので、いろいろの使い方が考えられますが、あらゆる場合に有効かというと、そうとも言い得ません。
 東京地裁立川支部平成25年9月25日判決では、敵対的株主の有する株式について議決権を100分の1に縮減する定款変更をした事案ですが、「差別的取り扱いが合理的理由に基づかず、その目的において正当性を欠いている場合や、特定の株主の基本的な権利を実質的に奪うものであるなど、当該株主に対する差別的取り扱いが手段の必要性や相当性を欠くような場合には、そのような定款変更をする旨の決議は、株主平等の原則の趣旨に違反するものとして無効というべきである」としました。注意しなければなりませんが、事業承継において株式の大半を後継者に譲渡した上で、先代経営者の有する株式について、「議決権を○○個とする」などとして先代経営者が議決権の過半数を有する状態にすることなどは合理的理由があり、その目的において正当性を有していると判断されると考えられます。

6. 以上説明した「属人的株式」を上手に使い事業承継を考えるのも有効な方法であると思われますので、今回の頭書の質問についてこの「属人的株式」を紹介することにしました。なお、前記のとおりの判例もありますので、属人的株式の導入のための定款変更が無効とされないように、また、前記の税法上の取扱いについても変更される可能性もあり得ますので、専門家と相談しながら進めることをお勧めします。


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