Q1.
当社では、有期雇用の契約社員について、正社員と区別して賞与や退職金を支給しないものとしていますが、問題はないでしょうか。
Q2.
扶養手当、年末年始勤務手当、夏期冬期休暇、有給の病気休暇の扱いについて差を設けていることはどうでしょうか。
A.
1.不合理な待遇差を設けることの禁止
期間の定めのある労働契約によって使用される有期契約労働者やパートタイマーなどの短時間労働者について、同じ企業で働く正社員との間で待遇に不合理な差を設けることは禁止されています(短時間・有期雇用労働者雇用管理改善法第8条。なお、平成30年法律第71号による改正前の労働契約法第20条も参照のこと。)。この規定について罰則はないものの、これに反すると、正社員の待遇との差額などについて損害賠償請求等をされる可能性があります。
これは、非正規労働者と正規労働者の労働条件に相当の格差が生じ問題となっていたため、漸次、立法上の対処がされてきたものです。
御質問の点については、いずれも正社員との間で有期契約労働者の待遇に差を設けるものですので、これらが許されるか否かは、そのような待遇の差が不合理なものと評価されるかにかかっています。
2.不合理性の判断基準
この不合理性の判断は、①職務の内容(業務の種類・難易度・範囲・権限・責任の程度等)、②職務内容や配置の変更範囲(転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等)、及び③その他の事情(職務の成果、労働時間の長さ、勤続年数、労使交渉を経ているか等)を考慮して行われますが、個々の事実関係を精査して総合考慮する必要があるため微妙な判断を迫られることも多く、判例の集積とその分析が重要といえます。
3.不合理性の判断基準
この点、昨年の10月13日と同月15日に、相次いで最高裁判所の判例が出されました。時期を同じくする判例ですが、御質問と同種の事案について待遇差が不合理か否かの判断が分かれており、注目されます。なお、これらの判例は改正前の労働契約法第20条に基づくものですが、法改正がなされた現在でも基本的な考え方に変わりはなく、十分参考になります。
まず、10月13日には最高裁判所の第三小法廷から二つの判例が出されていますが、正社員に対して賞与(令和1年(受)1055号、同1056号)や退職金(令和1年(受)第1190号、同第1191号)を支給する一方で有期契約労働者に対しこれを支給しないという労働条件の相違が不合理なものとはいえないとしています。賞与、退職金のいずれについても、人材の確保・定着を図る目的から支給されているものであることのほか、正社員と有期契約労働者の職務内容や当該職務の内容及び配置の変更範囲に一定の相違があること等を考慮し、不合理性を否定したものです。
これがQ1に対する一応の回答ということになります。もっとも、両判例とも、賞与や退職金の支給に係るものであったとしても、待遇差が不合理と認められる場合があり得ることを明示しており、事案によっては不合理性が肯定されることも考えられますので、この点には注意が必要です。
次に10月15日には最高裁判所の第1小法廷から3つの判例が出されていますが、夏期冬期休暇(平成30年(受)第1519号)、年末年始勤務手当、有給の病気休暇(令和1年(受)第777号、同第778号)及び扶養手当(令和1年(受)第794号、同第795号)の全てについて、正社員との間の待遇差が不合理なものと判断されています。いずれについても、手当等の目的・趣旨を認定した上、有期契約労働者への支給がこれに合致する場合には(例えば有給の病気休暇については、長期の継続勤務が期待されていることから、その生活保障を図り、療養に専念させることを通じて継続的雇用を確保するという目的のものと認定し、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても相応の継続的な勤務が見込まれるのであればその趣旨が妥当すると判示されています。)職務内容や当該職務の内容及び配置の変更範囲等に相応の相違があったとしても、待遇に差を設けることは不合理であるとされています。
これが、Q2に対する一応の回答となりますが、例えば手当の名称等が同じであっても、その意味合いが企業によって異なることは十分にあり得るため、これも事案ごとに判断をする必要があります。
4.法改正
不合理な待遇差の解消については働き方改革の一環として法改正が行われ、どのような待遇差が不合理なものとなるのか規定が明確化されたほか、問題となる例、問題とならない例を示したガイドライン(厚労省の次のWEBページを参照のこと。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html)も公表されています。また、正社員との待遇差について説明を求められたときには、待遇差の内容、理由等について有期契約労働者や短時間労働者に説明する義務も新設されています。この改正法は、大企業については昨年の4月1日から施行されており、中小企業(小売業は資本金の額等の総額が5000万円以下又は常時使用する労働者数が50人以下、同様に資本金等の総額と常時使用する労働者を基準とし、サービス業は5000万円以下又は100人以下、卸売業は1億円以下又は100人以下、その他は3億円以下又は300人以下)についても本年の4月1日から施行されます。
以上のとおりですので、この機会に、上記判例やガイドラインを踏まえて今一度労働条件の見直しをされることをお勧めいたします。